『風立ちぬ』とタバコ

宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』を観てきた。映画が素晴らしくてなんか感想を書きたいなと思ってたらいま話題になってたこの要望書を目にする。

 

映画「風立ちぬ」でのタバコの扱いについて(要望) 日本禁煙学会

http://www.nosmoke55.jp/action/1308kazetatinu.html

 

この要望自体はナンセンスだと思うんだけど、なんでナンセンスなのかを考えてると結構自分の中でのこの作品についての感想がまとまりそうなこれを手がかりにしてまとめた文章が以下となります。

 

作中の人物はとても旨そうにタバコを吸う。もちろんスクリーンの前の我々はタバコの害については十分周知されてる、百害あって一利なしは言い過ぎかも知れないけど、利があったとしてもそれに釣り合う対価は最近特に高騰してる。

それでも作品の中でタバコはとても魅力的に描かれる。

この、一般的には害悪とされてるけど、反面、映画の中でとても素晴らしいものとして描かれているものがあって、それは主人公の堀越二郎が開発している戦闘機だ。戦争の道具で人を殺すためのもの、だけど作中ではとても美しく、主人公が常に憧れるものとして描かれている。

要望書の”なぜこの場面でタバコが使われなければならなかったのでしょうか”に対する答えは、とても美味しくて魅力的なタバコが反面、最愛の妻の健康を害するおそれのあるもので、それは二郎が夢にまで憧れる飛行機が人を殺す道具という面を持っていることと相似するからである。これは”他の方法”では表現できない。(ちなみにこの病床の妻の側でタバコを吸うシーンの象徴性は禁煙学会が周知したタバコの害への理解がなくては成り立たないのはとても皮肉なことだと思う。)

なぜタバコなのか?という問いに対する答えは、なぜ人殺しの道具である戦闘機を――ひいてはミリタリ趣味全般を――愛好するのか?という問いと通じるものがあってその答えはどちらも、どんなに理屈で悪いものだとわかっていても、それが持ってる快感には叶わないから。

はてブでも作品擁護のコメントが目立つし、私も『風立ちぬ』の味方だけど、いちミリタリ趣味の持ち主(あえてミリオタとはいわない)として、自分が何を楽しんでいるのかについては自覚的でありたいなと思います。

 

以下、作品に対する断片的な感想

・カプローニは「飛行機は戦争のためでも商売のためにでもあるのではない」(大意)て言ってたけど、実際には戦争や商売に利用される。戦争や商売を利用して、技術者は自身のエゴを満たす。

・このカプローニみたいな言い訳はミリタリ系の作品を安心して楽しませるために色々工夫してて、『ストライクウィッチーズ』では人以外のものと戦うことで回避。恥ずかしながら未見だけど『ガールズ&パンツァー』では戦車道というスポーツなのでOKとしている(のだよね?)。

・菜穂子さんは関東大震災当時の菜穂子さんがとても好みです。幼さかわいいけど利発さを感じさせる会話が素敵でした。